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CDPで可視化する顧客行動。マーケティングのポイントはユーザー起点〜小畑陽一氏【前編】

小畑陽一氏

Webマーケティング

2021.6.21


デジタルマーケティングの賢者たち(8)小畑陽一氏【前編】

顧客の属性データとオンライン/オフラインの行動データを統合して、CRM施策などに活用することができる顧客データ分析基盤CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)が企業のDXの推進で注目されています。

経営者やマーケターに向けたスペシャルインタビュー「デジタルマーケティングの賢者たち」では、お客様のマーケティング課題や事業課題に対して、図書印刷が毎回さまざまなスペシャリストからビジネスの成功に向けた金言を引き出しています。今回は、CDPの専門書の著者代表 小畑陽一(おばたよういち)氏に図書印刷の鈴木がお話しをうかがいます。

まず前編では、小畑氏がCOO(Chief Operating Officer)を務めるUNCOVER TRUTH社がCDP活用支援サービス事業に行き着いた背景や、CDPの効果的な活用方法について、具体的なケーススタディも交えてお話しいただきました。

(今回は全2回の前編です。後編に続きます。)

 

本の上梓でマーケティングに課題を抱える企業の多さを実感

鈴木:著書を読ませていただきました。とても分かりやすくて、勉強になりました。

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『ユーザー起点マーケティング実践ガイド』
(マイナビ出版)
監修:小川卓、野口竜司、藤原尚也
著者:小畑陽一、菊池達也、仁藤玄

小畑氏:ありがとうございます。おかげさまで反響も非常にいいです。CDPだけに特化した専門書がなかったので、必要としている方が見てくださっているなと感じます。

鈴木:小畑さんがCOOをされているUNCOVER TRUTH社は、CDPツール自体は開発されてないのですよね。

小畑氏:CDP活用支援サービス「PERSONAL CDP」を柱としたコンサルティングおよびCRMの企画・運用サービスを提供しています。お客様のビジネスモデルへの最適化を重視しているので、CDPもCRM関連の各種ツールもすべてベンダーフリーでやっています。

鈴木:CDPは顧客の属性データとオンライン/オフラインの行動データを統合して、CRM施策などに活用することができる顧客データ分析基盤で、今、企業のDXという文脈で注目されていますよね。どういう経緯でそういった事業を始められたのですか?

小畑氏:UNCOVER TRUTHは2013年にヒートマップツールUSERDIVEのSaaSサービスでスタートしたテックベンチャーです。僕は創業1年後にジョインして、このSaaSサービスを核にした事業拡張を推進しました。具体的にはツールを使った分析コンサルティングをセットにしたエンタープライズ向けの高付加価値・高単価サービスに方向転換しました。そのタイミングでこの(「デジタルマーケティングの賢者たち」の)シリーズにも登場している小川卓氏にCAO(Chief Analytics Officer)として入ってもらい、分析については小川メソッドを社内で体系化して、浸透させて整えていきました。

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小畑陽一氏
株式会社UNCOVER TRUTH
取締役COO

 

サービス提供先への貢献価値を高めるためにリアルデータに注目

鈴木:最初はCDPを取り扱ってはおられなかったんですね。

小畑氏:そうです。デジタル上のデータ分析コンサルティングを行い、改善施策の企画・立案をすると、「改善もお願いできますか?」という話になることが多く、クリエイティブチームも作って、Webサイトの成果を改善するグロースハックもやるようになりました。 それでWebサイトやアプリなどデジタル上のグロースハックは結構できるようになったんですけど、多くのエンタープライズ企業の場合、売上のメインは、やはりリアル店舗なんですよ。EC化率は多くても10%ぐらい。もっとお客様の事業への影響度合いや貢献価値を高めたいと考えて、リアルのデータにも着目するようになりました。 オンライン/オフラインの店舗データ、コールセンターのデータ、紙からの反応など、デジタルで扱ってこなかったデータもきちんと見てつなぎ合わせると、顧客一人ひとりのLTVを伸ばすことができるんじゃないか。多様なデータを活用して、一人ひとりのデータをちゃんと可視化して、打ち手がもっと整備されていく世界を作りたい。それにはCDPが必要だねということで今のサービスにたどり着きました。

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鈴木暁雄
図書印刷株式会社
デジタルマーケティング部
プロデュースグループ主任

鈴木:お客様の要望に応えながら事業を拡張していく感じ、すごくよくわかります。僕たちも、デジタルマーケティング事業が一つの事業部に統合されて3年目ですが、オフラインの販売チャネルを持っている企業で、弊社がEC構築を支援させていただいたお客様からは、実店舗とECのデータ統合を進めていきたいという要望が増えてきています。つまり、顧客群の解像度を高めて、CRMをさらに強化していくという動きが活発になってきているので、お客様の事業拡大に貢献するために、弊社も事業領域をどんどん拡張しています。

 

有効なユーザーの行動データを絞り込むには仮説が重要

鈴木:CDPとDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の違いが分かりにくい人も多いと思うのですが、この図はよくわかりますね。また、CDPの活用メリットを3タイプのビジネスモデルグループで説明されていて、導入を検討されている企業にとってはとてもイメージしやすいと思いました。

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『ユーザー起点マーケティング実践ガイド』より

小畑氏:ビジネスモデルグループは次の3つですね。
① リテールモデル(オンラインとオフラインが直販チャネルの業態)
② メーカーモデル(流通を介してのユーザー接点が多い業態)
③ リアル営業モデル(オフラインでのみ購入・契約する業態)

もちろん、この3つに収まりきらないビジネスモデルもありますし、CDPはマーケティングの基盤となるため、オンラインのみならずオフラインの顧客体験にも影響します。実店舗や営業現場も含めて、顧客への体験設計が似通っているかどうかがグルーピングの着眼点になります。

鈴木:僕たちの課題と絡めて、もう少し具体的にうかがいたいのですが、例えば、ECで売上の指標や広告の指標などの定量的なデータを見ていくと限界が来るんですね。それで、定性的なアンケートなどを取ってみて、そのニュアンスをデータに戻してクリエティブを考えたり…とやるんですが、CDPを活用して、定量データと定性データをお客様の事業貢献に役立てるために、小畑さんはどのようなアプローチをされていますか?

小畑氏:僕らのアプローチでは定性的というよりも仮説を大事にしています。CDPは基本的にはデータがたくさん入る箱なので、定量分析に重点を置いています。 データには「結果のデータ」と「行動のデータ」があります。結果のデータは、例えばコンバージョン率とか売上、購入回数など、いわゆるRFM(※)と言われるデータです。100万人の会員がいたら、この結果のデータを元に、会員をSクラス、Aクラス、Bクラスみたいに分けるセグメントデータが作れる。もう一つ重要なのが、エンゲージメントを表す行動データです。例えば、ECで言えば商品詳細ページだけを見て買う顧客と、そのブランドのストーリーに共感を持って買う顧客ではLTVは違いますよね。その共感しているかどうかを判定するためのデータがどれかを仮説を元に探っていくんです。

※RFM…R:最新購買時期(Recency)、F:購買頻度(Frequency)、M:購買金額(Monetary)

鈴木:仮説はどうやって立てるのですか?

小畑氏:実際に店舗に関わる人たちの情報を元に立てていきます。某アパレルブランドの例ですが、そのブランドではスタッフブログや動画を積極的にやっていて、それを見た人がスタッフのファンになって、スタッフ指名でお店にやってくる。「コーディネートを一緒に考えてほしい」と言ってね。こういう人は「ガチファン」じゃないですか。そういう人を増やしたいわけですから、そこまでにナーチャリングされていくプロセスで、そういう人はWebサイトの中でどんな行動をとっているのか、そのデータを、仮説に基づいて数多あるクリックの中から「コレ!」って限定していくわけです。 もちろん定量的なデータでも根拠づけます。長期にわたって頻度も高く購入してくれている人はSクラス中のSですから、その行動データは重要です。そういう行動をとってくれる人をいかに増やしていくかが施策の本筋の方針になっていくわけです。

 

ビジネスインパクトを重視して施策にプライオリティをつける

鈴木:それが顧客の行動を起点に施策を考えていくということなんですね。

小畑氏:はい。また、重要なことは、単純にSクラスの顧客を増やすだけではなく、ビジネスインパクトを重視して優先順位をつけていくことです。例えば、わかりやすいように西口一希さんの9セグメントのイメージで見てみましょうか。(下図)

横軸が売上、縦軸が行動量です。右上の1がセグメントとしてはSクラス中のSです。ブロック的にはここの売上が一番大きいので、ここを増やすとよいわけですが、4や5の人をいきなり1に持っていくのは難しいですよね。しかし、例えば5のブロックにいる人の母数が非常に多い場合、そこの売上単価を引き上げるとインパクトのある数字になる。だから、ビジネス上の定量数値としてブロックごとの人数や、引き上げるときのコンバージョン率も数値で測ります。同じ工数をかけたときに、どのブロックからどのブロックが引き上げやすいかを定量的なデータにして、ビジネスインパクトの大きいところから優先順位をつける。その作業は完全に機械的に数字を追います。ファンを作るという目的は一緒ですが、どのブロックの顧客から順番にアプローチしていくかは、まず数字を見ます。

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西口一希著『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点のマーケティング』(翔泳社)より

鈴木:その場合、オフラインのデータは、どんなデータをどう活用するのですか?

小畑氏:CDPでは、その顧客がファンなのかどうかを表すときに、オフラインのデータが活きてきます。店舗での購買履歴や、可能であれば来店履歴、SFAによる顧客カルテ、コールセンターからの架電情報など、顧客のオフラインの行動をデータとして残していたら、めちゃくちゃ強い。Webサイトで商品詳細ページの1PVは無言のアクションなので熱量をさぐるのは難しいですが、電話やリアルコミュケーションだったら熱量は感じられるので、すごく重要な指標になります。仮説と定量データからブランド貢献度の高い顧客というのをきちんと捕まえて、誰をターゲティングして宣伝すればいいのか、その人は情報をシェアしてくれる人なのかなどが可視化できてくるので、売上やファン構造の構築が可能になるのです。(後編に続く)

 

いかがでしたか?後編では、データ取得の具体的なテクニックやCDP導入を成功させるためのポイント、3rd Party Cookieの段階的な廃止で、さらに注目されるデータ連携の今後の展開などをうかがいます!後編もご期待ください!

デジタルマーケティングの賢者たち(8)小畑陽一氏【後編】
「顧客と企業の価値交換のループを回せるかがDX推進のカギ」はコチラ>>

プロフィール
小畑陽一(おばた よういち)氏
株式会社UNCOVER TRUTH 取締役 COO

music.jpやルナルナを手がけるエムティーアイ社出身。ソリューション事業責任者として、大手企業向けモバイルサイト構築ソリューションで、国内ナンバーワンのASPサービスを展開。2014年、取締役として株式会社UNCOVER TRUTHの取締役COOとして経営に参加。経営・事業戦略とマーケティングを管掌。 ad:tech Tokyo / Kyushu、宣伝会議、MarkeZine、Web担当者フォーラムなど講演活動多数。

著書:『ユーザー起点マーケティング実践ガイド』(CDP専門書籍)
執筆:DXnote(CDP専門メディア)
鈴木 暁雄(すずき あきお)
図書印刷株式会社 デジタルマーケティング部 プロデュースグループ主任

2012年図書印刷入社。商業印刷物全般、スペースメディア、キャンペーン、Webマーケティングに従事した後、関連企業のデジタルマーケティング部署に出向。大手製菓メーカー、トイレタリーメーカーを担当。2019年4月より図書印刷のデジタルマーケティング営業部に所属。アカウントマネージャーとして、顧客の課題解決施策を企画・立案。また、プロジェクトマネージャーとして、社内外のメンバーを統率し数々のプロジェクトを推進中。

 

図書印刷のデジタルマーケティング支援サービス

図書印刷では、WebサイトやEC事業の構築・リニューアルも含めた幅広いデジタルマーケティング支援サービスを提供しています。お客様の課題や外部環境を踏まえた上で、企業(またはブランド)の強み・特長を、データに基づいて洞察、咀嚼/翻訳し、課題解決へ向けた戦略プランの設計から運用までをお手伝いしております。

図書印刷が描くDX時代のマーケティング透視図のページでは、当社の「デジタルマーケティング支援サービス」の導入企業のご担当者様や、デジタルマーケティング界の識者の方々へのインタビューを通じて得られた「生の声」を掲載。ぜひお客様のマーケティング活動にお役立てください。

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